余裕無い体制下で退職を余儀なくされたホ−ムヘルパ−の頸肩腕障害
事例は、51才女子。ある介護サ−ビスセンタ−に5年勤務している。2年程前より 食事の際に食器やスプ−ンが重いと感じていたが、今年5月中旬から後頚部に重苦し い痛みが出現し、更に右手(母指中心)から前腕の痛みとしびれが加わった。右肩も 苦しい。右の手首には、急性の腱鞘炎が発症していた。初診は6月9日で、握力が右 10、8kg、左18、19kgで利き腕優位が消失していた。診察上では、右肘に強い 圧痛、左肘にそれより軽い圧痛がみられた。上肢挙上で右は「血の気道が引く」とい う症状が誘発された。痛み、しびれも影響するが、特に、握力低下と腱鞘炎は、介護 労働の継続を困難としていて初診の日から休業の診断書を発行した。

このセンタ−には、十数人のスタッフがおり、昼夜を問わず訪問活動を展開してい る。対象者は、比較的に重症者の比率が高い。勤務は、日勤(8時半から17時15 分)、遅番(13時から21時45分)、夜勤(21時から9時)、早番(6時45 分から15時半)のシフトで、この事例では(遅)(夜)(明け)(遅)(休) (夜)での勤務循環だる。日中は、一人で、運転、おむつ交換、排泄介助等を行う。 夜間帯は、2人で業務にあたる。対象人数は、日中で7〜8件、夜間は、17〜8件 となる。

この事例への職場の対応は、教訓的であった。最初の休業の診断書(一ヵ月)に対 しては、「しっかり休んで下さい。後は心配しないで」であった。内服薬、軟膏、理 学療法と形成外科での腱鞘炎への局注療法等により、ひどい症状、所見が消失し、当 診療所主催の「けいわん教室」参加後のストレッチ体操の励行、プ−ルでウォ−キン グで更に改善傾向が見られたが、業務を一人で出来るかの「自宅模擬体験」の結果か ら、復帰を2週間延期する診断書を提出した直後には、「人でが足りない、出てこれ ないか」の電話が自宅に掛出し、休んでいることも大きなストレスになっていった。 事例のシフトのように、「明け」「休日」が6日サイクルに組み込まれてはいるが、 一人休むとその穴埋めに他の職員が入ることとなり、自然と負担増になっていく必然 性がある。結局、センタ−は、元気な他の職員を求めることをにおわし、事例は7月 下旬に退職届を出してしまった。治療の効果もあるが、新たなストレスが当面消える ことにより、痛みはもとより、睡眠、食欲も回復し、健康は回復した。現在もその状 態が持続している。

この事例の教訓は、介護労働からみて、「頸肩腕障害」「腰痛症」は、十分起きう るはずであるが、誰かが発症する前はそのことを想定していないこと、一人が休める 期間は極めて短く、他の職員の予備力の範囲でしか体制は生み出せないことである。 双方のストレスは、休職期間が長くなるにつれ極度に高まり、結局事例のように自ら 辞するしかないことである。本症は、今のところ体調も良いが、生活の為には、又働 かざろうを得ない訳で、疾病予防の条件が現場になければ、再発は必死である。今 後、介護保健が開始されれば、一層の需要が考えられるが、体制上の配慮がその施設 だけにまかされずに取られていく必要が明らかにされた事例である。